能登地方の地震による建物被害集中の理由は?地盤の微動探査から考察

建物被害が大きな場所が「揺れやすい地盤」、「共振しやすい地盤」であった可能性など5つの理由を確認

 地震を中心としたあらゆる揺れから生活を守る株式会社Be-Do(代表取締役社長 戸成大地、以下「当社」)は、5月5日14時42分ごろに石川県能登地方で発生したマグニチュード6.5、最大震度6強を観測した地震で、建物の被害が集中していた地域において、その理由を考察するために現地調査を実施、地盤の微動探査*を行って、被害が集中した原因について考察を行いました。

 その結果、1.建物被害が地域内で小さかった場所に比べて1.40~1.46倍程度揺れやすい地盤であったこと2.地盤と建物の周期が「共振しやすい」可能性があったこと3.地下にとくに軟弱な地盤があったこと4.表層地盤増幅率はハザードマップ(J-SHIS Map)と実測値が1.51倍離れていたこと、5.近傍の観測点のデータからキラーパルスに類する揺れによる被害拡大があった可能性の5点を確認いたしましたので、報告いたします。

*微動探査(常時微動探査):人が感じないくらいの揺れ(微動)をもとに地盤や家屋の特性を調査する手法。穴をあけたり騒音を発せず、非破壊、無振動・無騒音のクリーンな調査方法です。舗装や土間コンクリートの上からでも調査が可能で、既に住宅が建っている脇のガレージや庭先、玄関先などのスペースでも可能な調査法です。ここでは地盤の微動探査を実施しています(詳しくはこちら)。

1.調査の概要
調査実施日:2023年5月9日
調査範囲:石川県珠洲市正院町正院付近
調査実施メンバー:戸成大地(代表取締役社長)、横山芳春(会長・博士(理学))
実施内容:地盤の微動探査(3か所)、踏査による建物被害の目視観察、住民ヒアリング、住宅内見学(1軒)

微動探査の方法:地盤の微動アレイ探査
 各地点につき、極小アレイ探査、不規則アレイ探査を実施
 国立研究開発法人防災科学技術研究所の微動クラウド解析システム(BCAS)にて解析
 地盤のS波速度構造・表層地盤増幅率・地盤の周期を調査

調査実施地点(地理院地図に標高を着色・微動探査実施地点を加筆)

2.微動探査実施地点
地点① 須受八幡宮付近(標高約5.12m)
※周辺の建物被害は、地域内では比較的小でした

地点② 珠洲市消防団正院分団付近(標高4.15m)
※周辺の建物被害は地域内で比較的中程度でした
 地点①から約210m南南東

地点③ 正院本町から南130地点(標高1.50m)
※周辺の建物被害は地域内にて大でした。周囲には倒壊建物がある地点です
 地点①から約450m南西、地点②から約420m西南西

3.周辺の建物被害について
 調査範囲(珠洲市正院町正院付近)の地点①~地点③付近では、徒歩により目視での建物被害観察に加えて、現地の住民の方にご協力いただき、一部の住宅で築年数など建物の物件情報等のヒアリング、また地点①付近の住宅1軒では、建物内を見学させていただきました。

 調査範囲における住宅は、主に2階建てもしくは一部2階建ての類似した外見の建物が目立ち、木造在来工法で黒色の瓦(能登瓦)葺き屋根の建物が立ち並んでいました。損傷している建物を見ると、土塗り壁の住宅が多くみられました。ヒアリングによると築年数は築約30年~40年ほど、古いものでは60~70年程度のものが多く、倒壊した建物でも築約30年~40年ほどという話を聞くことができました。建物が倒壊していたすぐ近くの地域で同じような、もしくはより築年数が古いとみられる建物でも、被害が軽微であるという現象もみられました。

 調査範囲においては、南西側に向けて標高が下がっており、地点③周辺の南西側の地域で建物倒壊を含めた大きな被害が多くみられました。特に地点③の周辺では倒壊した建物が複数みられました。いっぽう、海から少し離れた北側(地点①を含む)では、築60年~70年と地域の中でも古い物件が多かったにも関わらず倒壊している建物はみられませんでした。地点②付近では、①付近よりやや被害が目立つようにみられました。

 建物内を拝見したお宅は、地点①付近の築約60年~70年の物件で、被害は以下の写真のように壁にヒビが入るなどの被害を確認していますが、このお宅では目視できる範囲で柱などには損傷はみられませんでした。

地点①付近における家屋(約60年~70年)内の被害例

4.微動探査結果

 地点①~③において地盤の微動探査を実施しました。複数台の微動計を用いた微動アレイ探査として、応用地震計測株式会社製の微動計「Be-Do-001」を用いて1地点につき、4台を用いた極小アレイ探査(半径60㎝)3台を用いた不規則アレイ探査(半径約5m前後)にて、各16分間の微動観測を行っています。解析は国立研究開発法人防災科学技術研究所微動クラウド解析システム(BCAS)を用いて、地盤の表層地盤増幅率・地盤の周期を求めました。

地点①における地盤の微動探査(極小アレイ探査)状況

微動探査の結果および、標高、地域内での周辺の家屋被害状況を以下一覧表に示します。

微動探査結果と調査地点の一覧表

4-1.表層地盤増幅率
 表層地盤増幅率とは、地表面近くに堆積した地層の地震時の揺れの大きさを倍率で数値化したもので、地盤の揺れやすさを示す指標です。数値が大きいほど地盤は軟弱で、地震時の揺れが大きくなります。

 計測結果は、地点①では1.49、地点②では1.55、地点③では2.18と、建物被害が相対的に大きい南西側の地域ほど、表層地盤増幅率が大きくなる傾向があり、とくに地点③で大きい結果となりました。2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)による5段階評価では、地点①、②は中間のランクC、地点③は揺れやすい側のランクDに区分されます。

 一般的には、表層地盤増幅率2.0を超えると揺れやすい地盤であると考えられ、地点③が該当します。なお、地点③は地点①を基準とすると1.46倍、地点②を基準とすると1.40倍、表層地盤増幅率が大きく、揺れが大きく増幅されるという結果となりました。

表層地盤増幅率のランク区分
2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)が定める5段階評価

 これらの結果から、同一地域内の近傍で倒壊した建物が多かった原因として、表層地盤増幅率が高かったことで、より大きな地震動(強い揺れ)に見舞われた可能性が示唆されます。地点③は地点①から約450m南西、地点②から約420m西南西という距離に位置していますが、このよ計測結果に大きな違いがみられました。

4-2.地盤の卓越周期
 地盤の卓越周期とは、地盤に固有の周期のことで、建物に最も影響を及ぼすピークの周期を示します。軟弱な地盤であるほどその時間は長くなります。建物の固有周期は同じ高さであれば耐震性が高いほど短く、新築や耐震等級が高い建物であれば固有周期0.1~0.2秒程度となります。古い木造住宅では固有周期0.5~1.0秒程度(場合によりそれ以上)が想定されます。

 計測結果は地点①では0.43秒、地点②では0.23秒、地点③では0.68秒でした。被害の大きかった地点③で卓越周期が最も長く、地盤と古い木造住宅で想定される固有周期が近い数値にあり、3地点の中では最も地盤と建物の周期が共振しやすい傾向がある可能性が考えられます

4-3.S波速度構造(地盤の層構造)
 微動探査では、地下のS波速度構造(地盤の層構造)を調べることができます。S波速度とは地震波のS波が地面の中を伝わる速さのことで、数値がS波速度が大きいほど地盤は硬くなりますので、地盤の硬軟を示す目安となります。S波速度構造とは、S波速度の深さ分布を示したグラフです。グラフの一番上が地面で、下側に行くほど深い地盤、右側に行くほど硬い地盤、左側にいくほど柔らかい地盤を指します。表示の都合上、地点①と地点②、③では深さの表記が違うことに注意ください。

 地点③は、横軸の数字が200m/sから始まる地点①、②と異なり、100m/sから始まっています。地点③は全体的に数値が小さく柔らかい地盤になっていることと、青色の矢印で示した部分では地下10m付近に特に軟弱な層があることがわかります。地点③では矢印より上の層では砂を主体とした層で、矢印付近の層はゆるいシルト(粘土より粗く砂より細かい)層や粘土層であることも考えられます。
 やや標高が高く砂丘の上にあると考えられる地点①、②に比べて川の近くの標高が低い場所にあり、川の近くの氾濫平野の堆積物や縄文時代の入り江の地層などに由来している可能性もあります。3地点の中では最も長い周期も、このような軟弱な地盤によるものと考えられます。

 このような地盤が、地点③の表層地盤増幅率が高い、ほかの地点より揺れやすいと考えられる地盤を構成しているものと考えられます。

調査地点におけるS波速度構造(地盤の層構造)

4-4.ハザードマップ(J-SHIS MAP)との比較

 公開情報から表層地盤増幅率を調べるハザードマップとして、防災科学技術研究所が公開する「J-SHIS Map 」があります。これは、全国を約250mのメッシュに分けて、地域の表層地盤増幅率の目安を知ることができるものです。クリックするだけで表層地盤増幅率や、地震に見舞われる確率がわかる非常に便利なマップです。

 J-SHIS Mapによると、地点①~③のあるメッシュはいずれも表層地盤増幅率1.44とされており、実測値が2.18だった地点③では1.51倍のズレが発生していることがわかります。なお、地点③の北西側の赤いメッシュでは表層地盤増幅率1.91とされていました。

 J-SHIS Mapは目安を知るツールとして非常に有用ですが、約250m四方の四角(メッシュ)ごとの評価であることから、ピンポイントで見るとこのような大きなズレが生じることがあります。微動探査では、宅地ごとにピンポイントで地盤増幅率を調べて、建物の耐震化などに活かすことができます。

J-SHIS Map」に調査地点を追記

4-5.地域の地盤情報を含めた考え方
 K-NET珠洲の観測点は、地点①の北約370m、地点③の北380mにあります。この地点での5月5日14時42分ごろの地震による地震動は、防災科研による「2023年05月05日 石川県能登地方の地震による強震動」の情報によると、K-NET正院観測点では最大加速度676gal(計測震度6.0)、速度・加速度応答スペクトルを見ると1.0秒程度の周期(加速度では0.8~1.2秒、速度では1~2秒程度)が卓越していました。特に古い木造建物に大きな被害をもたらす可能性が高い、いわゆる「キラーパルス(1~2秒の周期)」に相当するとみられる地震波であり、正院町付近で建物被害が多かった理由の一つと想定されます。また、地点③の地域内においてやや周期の長い地盤は、地震波とも共振しやすい可能性が考えられます。

 K-NET正院の地盤データを見ると、地表から深さ9mほどまでは主に硬い砂の層からなりますが、それ以深は非常に軟弱なシルト(砂より細かく粘土より粗い)の層です。深さ20mより深いデータは公開されていませんが、地点③以上に軟弱な層が厚く、非常に揺れやすい地盤である地域であることがわかります。先行研究(紺野ほか,1993)で、地点③の西側を流れる金川の流域では砂質層の下に、厚い粘土質層があるとされている一部であることも考えられます。地域の中でもひときわ大きなK-NET正院観測で観測された大きな地震動や、周辺の大きな被害はこのような地下の地盤特性に影響している可能性も考えられるでしょう。

5.まとめ

 5月5日14時42分ごろに石川県能登地方で発生したマグニチュード6.5、最大震度6強を観測した地震の被災地にて、被害の集中した珠洲市正院町付近で被害集中の可能性を検討するべく微動探査、建物の目視調査を実施したところ、被害拡大の理由は以下の5点が影響している可能性が判明しました。

1.家屋の被害が大きい地点③では、微動探査によって得られた表層地盤増幅率が2.18と、増幅率2を超えて揺れやすい地盤であると考えられます。周辺の建物被害が比較的小~中程度の地点から約400m程度しか離れていないにも関わらず、地点③では地点①、②より表層地盤増幅率が1.40~1.46倍数値が高いという結果が得られました。このことから、建物被害が大きかった地点では、表層地盤の増幅率が大きいことで、地域内でも大きな地震動が生じた可能性が考えられます。

2.地点③では、地盤の卓越周期は0.68秒と長い傾向がありました。地盤と古い木造住宅の周期が近い数値にあり、地盤と建物が共振しやすい傾向があった可能性が考えられます。

3.S波速度構造や先行研究などから、地点③付近では地下に10m程度やそれより深い場所に軟弱な地盤があるものとみられます。

4.ハザードマップ(J-SHIS Map)とピンポイントの実測値が1.51倍離れており(地点③)、微動探査によるピンポイントの計測が重要であることが浮き彫りになりました。

5.近傍の地震観測点のデータを参照すると、キラーパルスに類する揺れによる被害拡大の可能性も考えられ、被害の集中はこれらの原因が複合した可能性が指摘されます。

 以上、5月5日に発生した能登地方の地震で、被害が集中した地域で地盤の微動探査を実施し、地震による建物被害との関連性やその原因として考えられる理由について考察しました。

 本調査の概要は、6月23日(金)14時より開催のWEBセミナー住宅の地震・振動対策による安心・安全な住まいづくり」でも紹介する予定です。株式会社Be-Doでは、今後も微動探査を活用した地震防災や振動に関する課題解決に向けて「地震を中心としたあらゆる揺れから生活を守る」活動を進めてまいります。

 執筆:横山芳春・戸成大地(株式会社Be-Do)

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