令和6年能登半島地震調査速報② 家屋被害の著しい輪島市街地は「極めて揺れやすい地盤と判明

家屋倒壊、火災、ビルの倒壊があった輪島市街地の地盤の揺れやすさを実測し、極めて揺れやすい地盤と判明、山側の地すべり地域での被害も

  2024年(令和6年)1月1日の16時10分ごろ石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の令和6年能登半島地震」が発生しました。能登半島の甚大な被害と共に、金沢市近郊の内灘町付近(調査結果)、新潟県新潟市、富山県射水市・高岡市付近などで地盤の液状化による住宅の甚大な被害が発生しました。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様には、一日も早く平穏な日常生活へと戻れますよう、心からお祈り申し上げます。

 株式会社Be-Doでは、被災された地域にお住まいの方に向けた「家屋における耐震性能実測の無償提供」と並行して、建物の被害が集中していた地域において地盤の常時微動探査*を実施いたしました。2月7日に公開した調査第1報では、4地点(地点①~④)で地盤の常時微動探査を実施、志賀町赤崎地区は志賀町富来地区と比べて「4割以上揺れにくい地盤」であったこと、赤崎地区の地盤は「古い住宅が共振しにくい周期の地盤」であった可能性、内灘町の液状化地点では軟弱で地震時に特に揺れが増幅しやすい地盤であったことなどを確認いたしました。

 このたび、第2報(本報告)では、1月31日に家屋倒壊、火災、ビルの倒壊があった石川県輪島市の市街地において、3地点(地点⑤~⑦)で地盤の常時微動探査を行いました。その結果、輪島市街地の輪島市河井町(ビル倒壊現場から南西に80mほど)では、地盤の揺れやすさを示す「表層地盤増幅率」が2.68(ランクA~Eの5段階で最も揺れやすい側のランクE、以下に表あり)と極めて高く、揺れが増幅されやすく軟弱な地盤が続いていたことが判明しました。また、輪島市河井町付近では、部分的に著しい家屋の倒壊被害や、地盤の液状化とみられる噴砂などの現象もみられました。

 また、輪島市街地の西側の高台にある輪島市堀町では、多くの宅地擁壁や地盤が低い側に滑り、場合によっては擁壁とともに家屋が大きく破損する被害もみられました。地形は「地すべり地形」に位置しており、地震により地すべり状の地盤の動きが生じ、宅地地盤やその上に建つ地盤に大きな被害が発生した可能性が見込まれます。地盤の常時微動探査を実施したところ、「表層地盤増幅率」は山側で1.56、擁壁被害があった地点で1.76と、ハザードマップであるJ-SHIS Mapの数値0.67のいずれも倍以上で、通常の山側地盤に比べて揺れやすい地盤であることがわかりました。

*常時微動探査(微動探査):人が感じないくらいの揺れ(微動)をもとに地盤や家屋の特性を調査する手法。穴をあけたり騒音を発せず、非破壊、無振動・無騒音のクリーンな調査方法です。舗装や土間コンクリートの上からでも調査が可能で、既に住宅が建っている脇のガレージや庭先、玄関先などのスペースでも可能な調査法です。ここでは地盤の常時微動探査を実施しています(詳しくはこちら)。

1.調査の概要
調査実施日:2024年1月31日
調査範囲:石川県輪島市輪島地域
実施内容:地盤の常時微動探査(3か所)、踏査による建物被害/地盤変状の目視観察、家屋の常時微動探査

常時微動探査の方法:地盤の微動アレイ探査
 各地点につき、極小アレイ探査+不規則アレイ探査を実施
 国立研究開発法人防災科学技術研究所の微動クラウド解析システム(BCAS)にて解析し、
 地盤のS波速度構造・表層地盤増幅率・地盤の周期を調べました
家屋の常時微動探査:輪島市内の家屋周期・偏心観測2件(※結果はご依頼者にお伝えしております)

調査地点は、以下「地理院地図」に地形分類(自然地形)および、地形分類(人工地形)を示して表示します。

輪島市街の調査地点(「地理院地図」地形分類(自然地形)に表示)

輪島市街の調査地点(「地理院地図」地形分類(人工地形)に表示)

2.常時微動探査実施地点と周辺の被害状況

地点⑤ 石川県輪島市河井町付近(標高3.3m)
 輪島市輪島地域、「輪島の朝市」を含む市街地北側を占める輪島市河井町では、多くの家屋倒壊被害が認められました。地形区分としては、調査した範囲の全域が低地の「氾濫平野」に該当します。地盤の常時微動探査は、輪島市役所の北東約500m、ビル倒壊現場から南西に約80m(1本南側の通り沿い)で実施しました。

 また、地盤の常時微動探査を実施した周辺地域において可能な限りで踏査を行い、範囲内で確認された被害箇所のおよその位置について、下の地図上に表示いたしました。家屋の倒壊は広範囲で認められましたが、特に下図オレンジ色に着色した付近での被害が目立ちました。下図赤丸の地点では7階建てビルの倒壊のほか、黄色丸の地点では7階建てとみられるビルが大きく地盤に埋没して傾斜している様子もみられました。また、「輪島の朝市」エリアの一部、下図で赤色で着色した付近では火災による被害が著しい地域がありました(下図の位置はおよその範囲を示すものであることにご注意下さい)。

 地盤の液状化現象は、地表に噴砂や電柱の沈下等として生じているのは一部でしたが、下図水色で示した付近で認められています。地域の方によると、「(地震後に)泥水が噴き出してきて家の中まで入ってきて水道管の破裂かと思った」、「(下図南西の水色付近では)この地域は沼地のような場所だったと聞いている、電柱ぎわの砂は、周りに噴き出した砂を集めて埋めたもの」とのこと。ビル倒壊現場付近でも液状化噴砂とみられる砂の吹き出しが複数認められ、倒壊と地盤の液状化との関連性が今後検討されていくものと考えます。

輪島市河井町北西部における微動探査地点・現地踏査結果

周辺の被害状況。微動探査地点より1本南側の通り一致の被害。

周辺の被害状況。7階建てビルの倒壊。微動探査地点⑤の北東80m付近。

周辺の被害状況。ビルの傾斜。微動探査地点⑤の南240m付近。

周辺の被害状況。微動探査地点⑤南西160mほどの地点の被害。
地盤の液状化によるとみられる電柱の沈下あり。奥側ほど沈下が小さくなっている。

地点⑥ 石川県輪島市堀町付近(山側)(標高38.0m)
地点⑦ 石川県輪島市堀町付近(擁壁被害部)(標高33.6m)
 輪島市輪島地域の西側、標高20~50m程度の山地にあり、小高い丘のようになっている地域にある輪島市堀町では、斜面の造成宅地における地面の低い側へのすべり、擁壁の転倒、傾斜等が認められ、これに伴う家屋の損壊が多く認められました。地域内の最も山側の地点⑥と、それより約50mほど東南東にあり、擁壁の転倒被害があった地点⑦の2か所で地盤の常時微動探査を実施しました。

 この地域は、地理院地図による地形区分では自然地形では「地すべり地形」に位置し、人工地形では西側の切土地(標高が高い)と東側の盛土地(標高が低い)として示されていました。重ねるハザードマップでは「地すべり警戒区域」に指定されていました。擁壁の転倒、ずれなどは主に南~南東方向の斜面の下方に向かって発生している状況が認められました。地表部にある側溝や、マンホールと舗装面等も地形の傾斜に沿って、確認できた範囲で約40~55㎝程度のズレが認められました。なお、この数字は基準となっている地盤もズレていることが想定されるため、全体としてズレた範囲を必ずしも示しません。

 輪島市堀町付近の被害は、輪島市河井町などのビル倒壊、住宅被害や火災などと比べると現地でメディアの姿もなく、ニュースに取り上げられない状況にあります。しかし、平坦地の地震被害と異なる大きな被害があり、様々な被害があることも知って頂ければ幸いです。同様の地すべり状の被害や造成宅地の被害が懸念されるひな壇造成地は都市部近郊でも数多く存在すること想定されます。その復旧には住宅のみならず、擁壁の損壊も修復等の必要があることから多額の復旧費用が見込まれます。

輪島市堀町。地点⑦の状況。擁壁の転倒が見られる

輪島市堀町。擁壁の損壊と家屋基礎のずれ。地点⑦から南側約50m付近の状況

地点7の東南東約80mにて。マンホールと舗装のずれ約40㎝

3.常時微動探査結果

 地点①~④において地盤の常時微動探査を実施しました。複数台の微動計を用いた微動アレイ探査として、応用地震計測株式会社製の微動計「Be-Do-001」を用いて1地点につき、4台を用いた極小アレイ探査(半径60㎝)3台を用いた不規則アレイ探査(半径約5m前後)にて、各16分間の常時微動観測を行っています。解析は国立研究開発法人防災科学技術研究所微動クラウド解析システム(BCAS)を用いて、地盤の表層地盤増幅率・地盤の周期を求めました。

常時微動探査の結果および、標高、地域内での周辺の家屋被害状況を以下一覧表に示します。

輪島市における地盤の常時微動探査

 

4-1.表層地盤増幅率
 表層地盤増幅率とは、地表面近くに堆積した地層の地震時の揺れの大きさを倍率で数値化したもので、地盤の揺れやすさを示す指標です。数値が大きいほど地盤は軟弱で、地震時の揺れが大きくなります。

 計測結果は、⑤輪島市河井町では2.68、⑥輪島市堀町(山側)では1.56、⑦輪島市堀町(擁壁被害部)1.76となりました。2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)によるランクA~Eの5段階評価では、家屋被害の著しい⑤輪島市河井町では最も揺れやすいランクE、⑥、⑦の輪島市堀町ではランクCとなりました。

表層地盤増幅率のランク区分
2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)が定める5段階評価

 

 なお、地盤の揺れやすさのハザードマップと位置付けられるJ-SHIS Mapにおいて、地形区分より示されている表層地盤増幅率は、⑤輪島市河井町付近では1.75であり、実測の2.68では1.53倍揺れやすい結果となりました。同様に⑥、⑦輪島市堀町ではJ-SHIS Mapにおいて0.67でしたが、実測では1.56、1.76と、2.33~2.63倍揺れやすい結果となりました。

4-2.地盤の卓越周期
 地盤の卓越周期とは、地盤に固有の周期特性のことで、建物に最も影響を及ぼすピークの周期を示します。軟弱な地盤であるほどその時間は長くなります。計測結果は⑤輪島市河井町では0.84秒、⑥輪島市堀町(山側)では0.53秒、⑦輪島市堀町(擁壁被害部)0.37秒となりました。特に表層地盤増幅率が高い⑤輪島市河井町では長い卓越周期となりました。輪島市堀町では0.37~0.53秒と、山側の地盤にあってはやや長めの卓越周期であったことが想定されます。

4-3.S波速度構造(地盤の層構造)
 常時微動探査では、地下のS波速度構造(地盤の層構造)を調べることができます。S波速度とは地震波のS波が地面の中を伝わる速さのことで、数値がS波速度が大きいほど地盤は硬くなりますので、地盤の硬軟を示す目安となります。S波速度構造とは、S波速度の深さ分布を示したグラフです。グラフの一番上が地面で、下側に行くほど深い地盤、また右側に行くほど硬い地盤、左側にいくほど柔らかい地盤を指します。表示の都合上、各地点で深さの表記が違うこと、グラフによって硬さの目盛りが違うことに注意ください。

地盤のS波速度が300m/sという硬い層が出現する深さをみると、⑤輪島市河井町では地表から約50mと著しく深い傾向があり、100m/s程度の軟弱地盤も地表から約10m程度まで続くことから、地盤が軟弱であったことが示唆されます。⑥輪島市堀町(山側)では地表から約25m、⑦輪島市堀町(擁壁被害部)では地表から約18.5mでした。

輪島市内における地盤の常時微動探査から得られたS波速度構造


4-4.結果から考えられる考察

 これらの結果から、特に輪島市河井町においては以下のことが考察されます。

 輪島市河井町では、まず計測した地点における表層地盤増幅率2.68を示していることから極めて高く、周辺よりも地震時の揺れが大きく増幅された可能性が考えられます。地盤が地震動を大きく増幅したことで、周辺で建物被害が大きくなった可能性も考えられるでしょう。揺れにくい地盤で被害が軽微で「奇跡の町」と呼ばれた志賀町赤崎では表層地盤増幅率0.98であったことから、志賀町赤崎に対して輪島市河井町では実に2.73倍という大きな地震動の増幅があったことが考えられます。

1月31日~2月2日に実施した地盤の常時微動探査の結果一覧

 地盤のS波速度が100m/s程度の軟弱地盤は、地表から約10m程度まで続いていたことも確認されました。これらが砂地盤であった場合、低平な海岸平野にあることから地下水位も浅かったものと想定すると、地震の揺れが大きく増幅されやすい地域であったことを踏まえ、非常に液状化しやすい地盤であった可能性も示唆されます。

 輪島市河井町の地盤の卓越周期は0.84秒であり、著しく軟弱な地盤である地盤種別「第三種地盤」に相当すると考えられます。建築基準法では、第三種地盤では、壁量が通常(建築基準法施行令46条4項、表二)の1.5倍が必要とされています。揺れが増幅されやすい地盤であることからも、十分な耐震性を確保した住宅の建築が望まれる地域であると考えられます。

 また、大まかに建物の固有周期は階数の1/10(秒)と言われています。これを参考にすると、7階建てのビルの固有周期はおおむね0.7秒程度であると想定されることから、輪島市河井町で倒壊したビル、また大きく傾斜したビルの周期(推定で約0.7秒)と地盤の周期(0.84秒)が近しかった可能性があります。地盤の卓越周期と建物の固有周期とが近い場合、「共振」により大きな揺れがあることも想定され、ビルの倒壊・傾斜などの被害に共振が影響した可能性も考えられます。

5.まとめ

 石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」において、甚大な被害が発生した石川県輪島市街地で常時微動探査を実施しました。その計測結果および現地の踏査から、以下の可能性が示唆されます。

1.地盤の揺れやすさを表す表層地盤増幅率は、⑤輪島市河井町では2.68、⑥輪島市堀町(山側)では1.56、⑦輪島市堀町(擁壁被害部)1.76となりました。2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)による5段階評価では、家屋被害の著しい⑤輪島市河井町では最も揺れやすいランクE、⑥、⑦の輪島市堀町では山側では高い側と考えられるランクCとなりました。

2.地盤の揺れやすさのハザードマップと位置付けられるJ-SHIS Mapにおける表層地盤増幅率と比較すると、⑤輪島市河井町付近では実測の数値が1.53倍揺れやすい結果、⑥、⑦輪島市堀町では実測の数値が2.33~2.63倍揺れやすい結果となりました。ハザードマップ情報は目安にはなりますが、このように実測と大きなズレが発生する場合もあり、ピンポイントの評価には地盤の常時微動探査による実測が求められます。

3.地盤の卓越周期の計測結果は⑤輪島市河井町では0.84秒と非常に長い卓越周期、⑥輪島市堀町(山側)では0.53秒、⑦輪島市堀町(擁壁被害部)0.37秒と山側の地盤にあってはやや長めの卓越周期であったことが想定されます。

4.地盤のS波速度構造から、S波速度が100m/s程度の軟弱地盤は、地表から約10m程度まで続いていたことも確認されました。これらが砂地盤であった場合、低平な海岸平野にあることから地下水位も浅かったものと想定すると、地震の揺れが大きく増幅されやすい地域であったことを踏まえ、非常に液状化しやすい地盤であった可能性も示唆されます。

5.輪島市河井町の甚大な被害は、計測した地点における表層地盤増幅率は2.68と極めて高く、周辺よりも地震時の揺れが大きく増幅されることで建物被害が大きくなった可能性も考えられるでしょう。揺れにくい地盤で被害が軽微で「奇跡の町」と呼ばれた志賀町赤崎では表層地盤増幅率0.98であったことから、志賀町赤崎に対して輪島市河井町では実に2.73倍という大きな地震動の増幅があったことが考えられます。揺れが増幅されやすい地盤であることから、十分な耐震性を確保した住宅の建築が望まれる地域であると考えられます。

6.輪島市河井町では地盤の卓越周期は0.84秒であり、壁量が通常(建築基準法施行令46条4項、表二)の1.5倍が必要な第三種地盤に相当すると考えられます。また、7階建てのビルで大まかに想定される固有周期はおおむね0.7秒程度であると想定されることから、輪島市河井町で倒壊したビル、また大きく傾斜したビルの周期(推定約0.7秒)と地盤の周期(0.84秒)が近しく、「共振」により大きな揺れが影響していた可能性も考えられます。

7.輪島市堀町付近の被害は、輪島市河井町などのビル倒壊、住宅被害や火災などと比べると現地でメディアの姿もなく、ニュースに取り上げられない状況にあります。しかし、平坦地の地震被害と異なる大きな被害があり、様々な被害があることも知って頂ければ幸いです。同様の地すべり状の被害や造成宅地の被害が懸念されるひな壇造成地は都市部近郊でも数多く存在することが想定されます。その復旧には住宅のみならず擁壁の損壊も修復等の必要があることから多額の復旧費用が見込まれます。

 株式会社Be-Doでは、今後も常時微動探査を活用した地震防災や振動に関する課題解決に向けて「地震を中心としたあらゆる揺れから生活を守る」活動を進めてまいります。今後も被災地域(石川県、富山県、新潟県)で家屋の耐震性能実測の無償提供や、現地被災状況の調査などを進めてまいります。

 なお、今回の調査内容の一部は、「死因の約4割は“圧死”…甚大被害の町でなぜ倒壊免れた建物があったのか 専門家が指摘する3つの留意点 (2024年2月1日) 」としてニュース記事に取りまとめて頂くとともに、2月1日の石川テレビ(フジテレビ系列)報道特別番組「能登半島地震から一か月」にて放映頂いております。

 執筆:横山芳春・戸成大地(株式会社Be-Do)

内容に関するご質問、お問い合わせ、ご取材等につきましては、当社お問い合わせフォームよりお願いいたします。