令和6年能登半島地震調査速報① 「奇跡の町」や液状化被害集中の町で地盤の揺れやすさを実測
「奇跡の町」赤崎は近隣地域より揺れが4割以上小さくなる地盤。液状化被害集中の内灘町では揺れが2倍以上に大きく増幅される地盤
2024年(令和6年)1月1日の16時10分ごろ、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」が発生しました。能登半島の甚大な被害と共に、金沢市近郊の内灘町付近(調査結果)、新潟県新潟市、富山県射水市・高岡市付近などで地盤の液状化による住宅の甚大な被害が発生しました。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様には、一日も早く平穏な日常生活へと戻れますよう、心からお祈り申し上げます。
株式会社Be-Doでは、被災された地域にお住まいの方に向けた「家屋における耐震性能実測の無償提供」と並行して、建物の被害が集中していた地域において地盤の常時微動探査*を実施いたしました。特に、震度7を観測した志賀町の中で被害の少なさから、メディアに「奇跡の町」と報道された赤崎地区、その近郊にあり比較的家屋の被害が多かった富来地区、ならびに後日震度7の揺れがあったことが報告された輪島市門前町、また地盤の液状化によって甚大な被害が集中した内灘町において、地盤の常時微動探査を実施しております。常時微動探査の結果をもとに、地盤の特性の観点から被害が発生した状況もしくは地域によって被害が異なっていた原因について考察を行いました。
その結果、志賀町赤崎地区は志賀町富来地区と比べて「4割以上揺れにくい地盤」であったこと、赤崎地区の地盤は「古い住宅が共振しにくい周期の地盤」であった可能性、内灘町の液状化地点では軟弱で地震時に特に揺れが増幅しやすい地盤であったことなどを確認いたしましたので、報告いたします。なお、輪島市市街地でも地盤の常時微動探査を行っておりますが、こちらは追って第2報にて報告いたします。
*常時微動探査(微動探査):人が感じないくらいの揺れ(微動)をもとに地盤や家屋の特性を調査する手法。穴をあけたり騒音を発せず、非破壊、無振動・無騒音のクリーンな調査方法です。舗装や土間コンクリートの上からでも調査が可能で、既に住宅が建っている脇のガレージや庭先、玄関先などのスペースでも可能な調査法です。ここでは地盤の常時微動探査を実施しています(詳しくはこちら)。
1.調査の概要
調査実施日:2024年2月1日・2月2日
調査範囲:石川県羽咋郡志賀町・輪島市門前町(2月1日)・河北郡内灘町周辺(2月2日)
実施内容:地盤の常時微動探査(4か所)、踏査による建物被害/地盤変状の目視観察
常時微動探査の方法:地盤の微動アレイ探査
各地点につき、極小アレイ探査+不規則アレイ探査を実施
国立研究開発法人防災科学技術研究所の微動クラウド解析システム(BCAS)にて解析し、
地盤のS波速度構造・表層地盤増幅率・地盤の周期を調べました
2.常時微動探査実施地点と周辺の被害状況
地点① 石川県羽咋郡志賀町赤崎ロ(標高4.9m)
海沿いを走る石川県道49線沿いの周辺にある漁村集落であり、間口が狭く奥行きが非常に長い、黒瓦の木造住宅が立ち並んでいました。県道49号線沿いにおいて目視した限りでは倒壊している家屋はありませんでした。周辺で最も被害があるとみらえた地域でも、下の写真のような屋根瓦にブルーシートが貼られているのが見られるのみで、電柱の倒壊や地盤変状・液状化の痕跡などもみられませんでした。
地点② 石川県羽咋郡志賀町富来地頭町6付近(標高4.1m)
富来川沿いの低地にあり、石川県道23号富来中島線沿いに商店や民家が立ち並ぶ地域でした。黒瓦の木造住宅が多く、輪島市輪島地区のような多数の住宅の倒壊とまでは至っていませんが、倒壊・大破している家屋も複数みられました。川沿いでは護岸の損壊による道路の損傷がみられました。地盤の液状化は志賀町富来領家町甲のファミリーマート 志賀富来店付近でみられましたが、計測を行った富来地頭町付近では明瞭な噴砂等はみられませんでした。
地点③ 石川県輪島市門前町道下7付近(標高11.2m)
門前道下郵便局前の通りでは、黒瓦の木造住宅が多く、輪島市輪島地区のような多数の住宅の倒壊とまでは至っていませんが、家屋の倒壊・大破が多数ありました。1階部分の倒壊のほか、隣接した住宅の傾斜によりもたれかかるようになっている被害も複数みられました。地域には比較的新しいとみられる住宅もありましたが、それらは倒壊には至っておりませんでした。門前道下郵便局前の通りで電柱の傾斜複数のほかマンホールの抜けあがり、やや高い場所に上がった諸岡公民館付近では複数個所で液状化による噴砂もみられました。
地点④ 石川県河北郡内灘町西荒屋ロ付近(標高2.4m)
石川県道8号松任宇ノ気線沿いに位置する、内灘砂丘の東側の「へり」付近では液状化による地盤流動によって発生したとみられる被害が多数発生していました。特に調査地の内灘町西荒屋付近では、家屋の沈下、傾斜が著しく、「側方流動」により斜面側から地下の土が押し出されているとみられる隆起や道路の波うち、電柱や看板などの傾斜、階段やガレージの埋没や押し出しなど多数の地盤変状がみられました。地盤変状により引き裂かれているように被害が生じている家屋はありましたが、揺れにより倒壊しているとみられる家屋はありませんでした。
なお、内灘町近辺の液状化被害は、別途横山が「令和6年能登半島地震・金沢市周辺の市街地の緊急調査からの提言 」としてとりまとめています。液状化による被害が、金沢市粟崎町から内灘町を経て、かほく市内日角まで、少なくとも約12.5㎞ほどの範囲で認められています。
3.常時微動探査結果
地点①~④において地盤の常時微動探査を実施しました。複数台の微動計を用いた微動アレイ探査として、応用地震計測株式会社製の微動計「Be-Do-001」を用いて1地点につき、4台を用いた極小アレイ探査(半径60㎝)、3台を用いた不規則アレイ探査(半径約5m前後)にて、各16分間の常時微動観測を行っています。解析は国立研究開発法人防災科学技術研究所の微動クラウド解析システム(BCAS)を用いて、地盤の表層地盤増幅率・地盤の周期を求めました。
常時微動探査の結果および、標高、地域内での周辺の家屋被害状況を以下一覧表に示します。
4-1.表層地盤増幅率
表層地盤増幅率とは、地表面近くに堆積した地層の地震時の揺れの大きさを倍率で数値化したもので、地盤の揺れやすさを示す指標です。数値が大きいほど地盤は軟弱で、地震時の揺れが大きくなります。
計測結果は、①志賀町赤崎では0.98、②志賀町富来では1.69、③輪島市門前町道下では1.24、④内灘町西荒屋では2.29となりました。2020年度版以降のJ-SHIS(地震ハザードステーション)による5段階評価では、被害が軽微な①志賀町赤崎が最も揺れにくい側のランクA、倒壊家屋のある③輪島市門前町道下が次に揺れにくいランクB、および②志賀町富来がランクC、液状化による被害が多い④内灘町西荒屋はランクDのうち、限りなく最も揺れやすいランクEに近い結果となりました。
・「奇跡の町」赤崎の地盤の硬さとは?
②志賀町富来(地頭町)は、震度7を記録した志賀町富来領家町に隣接しており、①志賀町赤崎町とは5.8㎞しか離れていない位置関係にあります。志賀町については、“最大震度7”志賀町で被害状況にばらつき 多くの建物が倒壊免れた“奇跡の町”も…専門家「地盤の硬さ」指摘|FNNプライムオンライン(2024年1月16日 )、また最大震度7を観測も… なぜ家屋の倒壊免れた?「揺れる周期が関係」石川県志賀町の“奇跡の町”を検証 | TBS NEWS DIG(2024年2月1日)というニュースがありました。これらのニュースでは、これらの地域の被害の違いを「“地盤の硬さ”が被害状況を分けた」「富来領家町地区のすぐそばには富来川が流れていて、地盤が柔らかかったことなどが被害拡大の要因」と紹介されていました。
今回の常時微動探査では、それら2地域の地盤の揺れやすさを実測して数値で示した形になります。表層地盤増幅率は、①志賀町赤崎では0.98、②志賀町富来では1.69となることから、②志賀町富来を基準として①志賀町赤崎をみると、表層地盤増幅率は0.57倍となります。以上から、実測されたデータに基づくと、②志賀町富来と比べて①志賀町赤崎は4割以上揺れにくい土地であることがわかりました。①志賀町赤崎を基準としてみると、同じ地震の揺れがあった場合に、②志賀町富来では1.72倍も揺れやすいといえます。このような地盤の揺れやすさの違いが、赤崎付近で被害が軽微で、富来付近で倒壊などの被害を拡大したことに影響しているという想定について、実測した数値からもこれを支持するということができます。
・著しい液状化のあった内灘町では?
内灘町でも、各種報道で傾いた道路標識と波打った道路が象徴的な④内灘町西荒屋付近で計測を行ったところ、表層地盤増幅率は2.29と非常に大きく、非常に揺れやすい側の地盤であったことがうかがえます。非常に揺れやすく、地震の揺れが大きく増幅される地盤の特性が、地震の揺れを周囲の地域よりも大きな揺れをもたらし、液状化被害を助長した可能性も考えられるでしょう。
なお、内灘町で震度計のある内灘町役場(内灘町大学)では、令和6年能登半島地震で震度5弱を観測しています。計測を行えておりませんが、内灘町役場は砂丘の上にあり、液状化発生地点より表層地盤増幅率が低い「揺れにくい」地盤であったことも想定されるでしょう。
4-2.地盤の卓越周期
地盤の卓越周期とは、地盤に固有の周期特性のことで、建物に最も影響を及ぼすピークの周期を示します。軟弱な地盤であるほどその時間は長くなります。
計測結果は①志賀町赤崎では0.294秒、地点②志賀町富来では0.50秒、地点③輪島市門前町道下では0.44秒、地点④内灘町西荒屋では1.85秒となりました。表層地盤増幅率が高い地点ほど卓越周期は長い(数字が大きい)結果がみられました。
なお、熊本地震で被害が集中した益城町では、地盤の卓越が周期0.5秒前後の地盤で、既存住宅の被害が大きくなる結果も報告されています(Senna et al., 2018)。②志賀町富来、③輪島市門前町道下の卓越周期が0.44~0.50秒とこれに近い数値である一方、①志賀町赤崎では卓越周期が0.294秒とこれより短いことから、志賀町赤崎では揺れにくい地盤であることに加えて、築年数の古い木造住宅が共振しづらかった可能性も考えられます。
4-3.S波速度構造(地盤の層構造)
常時微動探査では、地下のS波速度構造(地盤の層構造)を調べることができます。S波速度とは地震波のS波が地面の中を伝わる速さのことで、数値がS波速度が大きいほど地盤は硬くなりますので、地盤の硬軟を示す目安となります。S波速度構造とは、S波速度の深さ分布を示したグラフです。グラフの一番上が地面で、下側に行くほど深い地盤、また右側に行くほど硬い地盤、左側にいくほど柔らかい地盤を指します。表示の都合上、地点①~③と地点④では深さの表記が違うこと、グラフによって硬さの目盛りが違うことに注意ください。
地盤のS波速度が300m/sという硬い層が出現する深さをみると、①志賀町赤崎では地表から約2.5mである一方、②志賀町富来では地表から約22.5mと深めで、途中で逆転層(数字が低く柔らかくなる層)でした。2地点を比較すると、赤崎の地盤の硬さが深度方向の地盤の硬軟からもうかがえます。③輪島市門前町道下では地表から約14mほどとなります。他方、④内灘町西荒屋では地表から深さ65m以上であり、逆転層で200m/s以下の柔らかい地盤が続くなど、全体として柔らかい地盤が続くことが見込まれます。
5.まとめ
石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」において志賀町付近、内灘町で常時微動探査を実施しました。被害の異なる理由は以下の3点などが影響している可能性が判明しました。
1.地盤の揺れやすさを表す表層地盤増幅率は、①志賀町赤崎では0.98、②志賀町富来では1.69、③輪島市門前町道下では1.24、④内灘町西荒屋では2.29となりました。家屋の倒壊被害のあった②志賀町富来と比べて、被害が軽微な①志賀町赤崎は4割以上揺れにくい地盤(①志賀町赤崎を基準とすると②志賀町富来では1.72倍も揺れやすい)であることがわかりました。④液状化被害の著しかった④内灘町西荒屋では、特に揺れやすい地盤であったことがわかりました。
2.計測結果は①志賀町赤崎では0.294秒、地点②志賀町富来では0.50秒、地点③輪島市門前町道下では0.44秒、地点④内灘町西荒屋では1.85秒となりました。表層地盤増幅率が高い地点ほど卓越周期は長い(数字が大きい)結果がみられました。①志賀町赤崎では地盤の周期が短く、ある程度築年数の古い木造住宅が共振しづらかった可能性も考えられます。
3.S波速度構造から、①志賀町赤崎では硬い層が地下の浅い深度で出現する一方、②志賀町富来、③輪島市門前町道下では地下で地盤が柔らかくなる「逆転層」がみられました。④内灘町西荒屋では逆転層で柔らかい地盤が続くなど、全体として柔らかい地盤が続くことが見込まれました。
株式会社Be-Doでは、今後も常時微動探査を活用した地震防災や振動に関する課題解決に向けて「地震を中心としたあらゆる揺れから生活を守る」活動を進めてまいります。なお、輪島市の調査結果については改めて報告するほか、今後も被災地域(石川県、富山県、新潟県)で家屋の耐震性能実測の無償提供や、現地被災状況の調査などを進めてまいります。
執筆:横山芳春・戸成大地(株式会社Be-Do)
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