常時微動探査はどんな調査方法か?
地面に穴を開けたり大きな機材を用いずに、地盤を調査する方法として「常時微動探査」が注目されています。常時微動探査とは、人が感じないくらいの揺れをもとに地盤や家屋を探査する、新たな調査法です。
Be-Do(ビィードゥ)では、食パン一斤より少し大きいくらいの大きさの微動計(高精度の地震計)を地面または家屋の床に置き、常時微動観測を行います。地盤の揺れ方の特徴や地盤の硬さを調べて地震があった時に地盤がどのように揺れるか、また、住宅の耐震性能を実測して数値で示すことができます。常時微動探査には、微動計を複数台用いて、1現場45分~60分程度(異なる測り方で約17分×2回計測)で準備・観測が可能です。
常時微動探査は、地面に穴を開けたり排気等を発しない、非破壊、無振動・無騒音のクリーンな調査方法です。舗装や土間コンクリートの上からでも調査が可能で、既に住宅が建っている脇のガレージや庭先、玄関先などのスペースでも可能な調査法です。
地盤の常時微動探査方法
従来から行われている地盤調査(左下)は、建物の重さに地盤が耐えられるかなどを目的とした調査で、地震が起きた時にどれくらい地盤が揺れやすいか、どういった地震で揺れが大きくなるかなどはわかりませんでした。
Be-Doが推進する地盤の「常時微動探査」(右下)では、従来の地盤調査ではわからなかった、地震発生時の地盤の揺れやすさや周期特性について調べることができます。
地盤の常時微動探査からわかること
①地震時の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)
下の図のように、近くにある同じ造りの家屋でも、家屋が建っている地盤が軟らかければ地震時の揺れは大きくなります。逆に直下の地盤が硬ければ揺れは減衰していきます。過去の地震では、自然の地盤では被害が小さい地域でも、盛土の地点では被害が大きく、実際に計測してみると表層地盤増幅率(地盤のゆれやすさの数値)大きいという傾向がありました。
2021年10月に、千葉県北西部を震源とする地震で、東京都足立区や埼玉県宮代町で震源付近よりも大きな最大の震度5強を記録した事例があります。これも、地盤の揺れやすさが大きい地域で、揺れが増幅された可能性も考えられます。
ある地震が発生した時、揺れにくい地盤の場所で震度5強の揺れが観測された場合、近くに非常に揺れやすい地盤では震度6弱、6強、7相当に揺れる可能性があります。「〇〇市で震度いくつ」という情報も、その自治体の地震計が設置してある場所の震度であるため、実際にはより大きな震度の揺れがあった場所、そこまで大きな揺れがなかった場所があります。
②地盤の卓越周期
地盤にはそれぞれ周期に特長があり、最も強く特長が出ている周期を「卓越周期」と呼んでおります。
その地盤上に建つ家屋が持っている固有周期と、地盤の卓越周期が一致すると「共振」という揺れが大きくなる現象が発生、建物に被害を大きく及ぼすことが知られています。2016年に起きた熊本地震の被災地である益城町において、先名重樹博士らが微動探査結果と家屋の倒壊状況を比較した実施した研究(Senna et al. ,2018)では、地盤の周期が0.5秒前後の地域で建物被害が大きかったことが報告されています。
③S波速度構造(層構造の計測)
地盤の硬軟によって、振動が伝わる速度が変わります。
「常時微動探査」では深度約30mまで(配置方法によっては100m以上)の地盤の硬軟を計測する事が可能です。得られたS波速度構造は、ボーリング調査で得られるN値(SWS試験でも換算N値から支持力を計算しています)に換算することが可能となります。
試験的に行った事例では、ローム層の地下約6〜8mにある空洞を検知できた例や、地震によってゆるみが発生した可能性がある層を検知できたとみられる例があり、切土と盛土の境界の調査に用いるなど様々な用途が期待されます。
地盤の常時微動探査の活用法
熊本地震では、通り1本挟んで地盤の揺れかたの特徴が異なり、揺れやすい地盤の地域に被害が集中するという現象がみられました。また、ある地震の被災地では、家2件ほど離れたところで常時微動探査を行ったところ、被害が大きかったところでは盛土地の揺れやすい地盤であることがわかりました。
住宅を建てる前に常時微動探査を行っておくことで、その場所の地盤の揺れやすさや共振のしやすさをベースに、耐震性の高い住宅を造るなどの対策の根拠情報に使うことができます。揺れやすい地盤、共振しやすい地盤と建物では、とくに構造計算(許容応力度計算)や制振オイルダンパーの設置がお勧めできます。
微動探査では、地盤の卓越周期がわかると、国交省告示1793号に示された「地盤種別」を区分することができます。軟弱な地盤の第三種地盤では、1.5倍の壁量が必要となります。詳しくは「地盤種別」のページをご覧ください。
国際的な標準化・法制化に向けて
常時微動探査は、平成13年国土交通省告示1113号に記載された地盤調査方法のうち、「六.物理探査に該当」し、同告示に拠る調査方法です。地盤の層構造(深さと硬さ」がわかることから、「支持層」の深さの調査などに用いることができます。
常時微動探査については、現在国際的な標準化を進めるべく、各機関等が連携して取り組みが進められてきました。2022年9月には常時微動探査に関する国際規格が承認され、ISO24057として発行されております。当社らが推進する地盤の微動探査は、国際規格に準拠した内容で実施しております。今後は、各関係機関や関連企業、登録企業等とも連携のうえ、国内での標準化や普及促進に一層尽力してまいります。
家屋の耐震性能も計測可能
常時微動探査は、地盤だけでなく住宅の耐震性を計測をすることが可能です。既存住宅に微動計を置いて1時間ほど観測を行って、耐震補強のエビデンスとする事が可能です。新築時に観測して強度を計測しておけば、設計通りの施工により耐震性が確保されているかのチェックや、地震後や定期的な観測により、既存住宅の劣化具合を確認する事ができます。
既存住宅に微動計を配置して1時間ほど計測し、地盤と建物の共振の確認建物の剛心の確認を行います。耐震診断を行う必要性について3段階で評価することができます。詳しくは、家屋の耐震性能のページをご覧ください。
耐震改修や制振オイルダンパー設置後の性能の確認や、交通振動にお悩みの際の調査・対策の提案も可能です。交通振動の調査では、建物の耐震性能の評価に加えて、地盤、1階床面、2階床面(3階床面)に微動計を配置します。建物と地盤の周期を計測することで、交通振動と共振しやすいかどうか評価することを目的としています。
今後の常時微動探査の展開
常時微動探査に加えて、ごく浅部の地盤構造を把握するために人工的に揺れを与える加振探査を併用をテスト中。現在主にスクリューウェイト貫入試験(SWS試験)で行っている地盤の地耐力に関する調査および判定もできるように取り進めております。SWS試験で課題であった高止まりや逆転層の把握ができることが期待されます。