新潟市西区の液状化被害はどこで起こったか~
令和六年能登半島地震による液状化の実態解明に向けて~
2024年(令和6年)1月1日の16時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする「令和6年能登半島地震」が発生しました。能登半島の甚大な被害と共に、金沢市近郊の内灘町付近(調査結果)、新潟県新潟市、富山県射水市・高岡市付近などで地盤の液状化による住宅の甚大な被害が発生しました。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様には、一日も早く平穏な日常生活へと戻れますよう、心からお祈り申し上げます。
2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、2016年熊本地震、2018年北海道胆振東部地震、2018年インドネシア・スラウェシ島地震、また令和六年能登半島地震では金沢市近郊の液状化被害を現地調査した株式会社Be-Do会長・地盤災害ドクターの横山芳春が、1月21日に新潟市西区の液状化が発生していた地域において現地調査を実施、地形との関連性や今後注意すべき点などについて考察を行いました。
その結果、砂丘の縁辺~後背湿地の斜面における、「側方流動」とみられる被害や、旧池沼、旧河道、自然堤防といった地形の場所における被害傾向が確認されました。とくに側方流動とみられる被害は、石川県河北郡内灘町付近でも似通った砂丘の内陸側斜面の縁辺部という同じような地形で発生しており、今後の地形を考慮した液状化防災に向けて注意すべき点であると考えられます。
・調査の概要
調査実施日:2024年1月21日
実施内容:踏査による液状化被害の目視観察(4地域)
調査範囲:新潟県新潟市西区(下図の通り)
①新潟市西区旭日通り(新潟砂丘の内陸側の縁辺~後背湿地)
②新潟市西区小新西(旧池沼)
③新潟市西区ときめき西(旧河道~自然堤防)
④新潟市西区善久(旧河道~自然堤防)
①新潟市西区朝日通り(新潟砂丘の内陸側の縁辺~後背湿地)
西区寺尾朝日通りでは、北西側に位置しており地形的に小高い高地となっている新潟砂丘(近辺の高い場所で標高27m程度)と、南東側にありゼロメートル地帯となる後背低地(低い場所で標高-1.8m程度)との地形境界付近で液状化被害が集中していました。下に新潟砂丘を切る断面図に、液状化被害が生じていた場所を書き込んでいます。
この地形境界付近には、新潟県道16号(新潟亀田内野線、以下「県道」と表記)が北東‐南西方向に走っており、その両側付近において液状化被害が目立ちました。概ね標高2~3mから、標高-1.0~‐1.8mほどの3~5mほどの緩い傾斜地となっております。県道より北南側(砂丘側)ではやや傾斜が大きくなっており急坂状になっており、坂道の道路の下方への断裂、路面・地面の地割れやひび割れが目立ちました。
砂丘の斜面の上側から下に表層の地盤が流下することによる地盤変状がみられ、周囲には盛んな液状化噴砂がみられました。擁壁、ブロック塀、道路の舗装などは、標高の低い側に押しやられているような被害がありました。このような特徴から、石川県河北郡内灘町付近で発生していたとみられる、下層の地盤の液状化に伴って表層地盤が標高の低い側にズレ動く、「側方流動」が発生していた可能性が推測されます。
側方流動とみられる被害が発生していた場所は、新潟砂丘の内陸側縁辺(端部)のゆるい傾斜地となっています。このような傾斜地の斜面の下端付近で地割れやひび割れが走っている部分ではアスファルト舗装の損傷があり、これを境として元は一定の傾斜であった坂道(googleストリートビューで観察)の傾斜が変わっている様子がみられました。大きくブロック塀の断裂、家屋の斜面下側の地盤沈下および家屋の損傷が発生しているように観察されました。
周辺には盛んな液状化噴砂がみられ、舗装の境目や側溝のへり、構造物のきわなどから、多くの噴砂の噴出があったことが想定されます。液状化噴砂は、斜面の下方から県道の南東側に至る後背湿地でも多く発生していることが認められました。
県道の北西側では、斜面に設けられた擁壁などの斜面下方側(県道側)への膨らみ(はらみ出し)、ズレ、ひび割れ、剥離などがみられました。砂丘の斜面上方からの表層地盤の押し出しが生じていたことが推測されます。
県道の周辺では、アスファルト舗装や側溝などが南東側(斜面下方)に圧縮されることによる被害や変状もみられました。このような現象は、内灘町付近ではより顕著なアスファルトの盛り上がりとして発生していました。
以上のような特徴からも、斜面側のひび割れ・亀裂とその延長における被害や、アスファルト舗装の盛り上がりなどは、斜面における側方流動として石川県河北郡内灘町付近でみられた被害(図の出典:河北郡内灘町の調査報告)と似かよった被害が多数発生していました。
内灘町付近でみられた事例では、地盤が数m単位で流動している場所もあるとみられるほどの規模ですが、寺尾朝日通付近では、そこまでの流動が発生していないとみられることから、擁壁の転倒や道路の著しい盛り上がりや波うち、階段の角度が急傾斜になる、多数の斜面ぎわの家屋の甚大な被害までは至っていないことが考えられます。内灘町付近との被害の違いは、①地震動の大きさ等の違い、②地盤や地下水位等の条件の違い、③地形的な斜面の角度等の違いなどが考えられるでしょう。
このほか、県道沿いにある新潟西郵便局付近では、建物付近での大きな被害が認められました。郵便局の建物が、少なくとも36㎝程度道路面より上がっているような現象がみられ、周囲の地盤は大きく沈下し駐車場の陥没が発生していました。このような現象は、地盤が沈下するか、建物が浮き上がるかのいずれかによるものと考えられます。
郵便局の建物構造は不明ですが、建物の脇に地下駐車場入り口が確認できました。郵便局地下に駐車場スペースを有する地階があった場合、建物自体が液状化によって浮き上がるような現象が発生し、周辺の土砂はその下方に引き込まれてしまった可能性も考えられるでしょう(株式会社M's構造設計の代表取締役社長・佐藤実氏、同社・佐藤大地氏、西日本住宅地盤事業協同組合の代表理事・西村伸一氏との共同見解)。
②新潟市西区小新西(旧池沼)
西区小新西(新潟工業高校付近)では、旧池沼(旧水部)として、以前沼地であった場所における液状化被害が目立ちました。標高は-0.6~-0.8m前後と周辺の低地の中でも際立って標高が低い場所に位置しています。この地域を地理院地図の地形分類(自然地形)で確認すると、灰色の部分は「旧水部」という地形区分になります。地理院地図によると「江戸時代もしくは明治期から調査時までの間に海や湖、池・貯水池であり、過去の地形図などから水部であったと確認できる土地。その後の土砂の堆積や土木工事により陸地になったところ」と記載されています。
この付近の古地図を確認すると、水田地帯の中にある池沼があった場所と判読され、旧池沼であった場所が埋め立てられるなどして、宅地化された場所であるものと考えられます。
この地域の住宅地では、宅地周辺の地盤沈下、盛んな噴砂の噴出、電柱の傾き、ブロック塀などの沈下、道路の変状などの被害がみられました。ブロック塀基礎部分が大きく土中に埋没し、また大きく沈下した付近では亀裂の延長部で断裂があるなどの被害がみられました。
新潟工業高校脇の道路では多くの噴砂の噴出がみられました。噴砂を観察すると、砂としては中くらいの大きさの粒の砂からなり、粒ぞろいのよい砂浜の砂と同様のような砂であることが観察されます。池沼を埋め立てられるときに用いられた砂であることが想定されます。
③新潟市西区ときめき西(旧河道~自然堤防)
信濃川の左岸に位置する西区ときめき付近では、地理院地図の「地形分類(自然地形)で青色の「旧河道」および、その脇にあり黄色の「自然堤防」付近で液状化被害が目立っていました。標高は0.7m~0.9mほどでした。特に多量の噴砂の噴出が特徴的でした。
ときめき西付近では、非常に多量の噴砂が噴出していることが特徴的でした。直径30m程度の噴砂孔から、直径6m程度ともみられる噴砂が列状に噴き出しており、少なくとも20㎝以上の高さに砂が堆積している地点もありました。
④新潟市西区善久(旧河道~自然堤防)
信濃川の左岸に位置する西区善久は、ときめき西の南側の地域あたり、地理院地図の「地形分類(自然地形)で青色の「旧河道」および、その脇にあり黄色の「自然堤防」付近で液状化被害が目立っていました。ときめき西の付近の旧河道の南側延長にあります。標高は1.2~1.5m程度でした。旧河道と自然堤防は標高がほぼ同程度でした。家屋付近の地盤沈下、ブロック塀の被害、電柱の沈下などのほか用水路付近の損傷、浄化槽(跡?)の浮き上がりなどがみられました。
調査のまとめと今後の課題
以上、新潟市西区付近で液状化被害が大きかった地点について調査を実施しました。新潟市は、海側に新潟砂丘があり、その陸側で信濃川が蛇行することを繰り返した低平な土地ですが、地形区分やそれによる地盤条件の違いから、被害の大きな地点が発生したことが想定されます。今後の地震に備えて、課題となる点についてまとめました。
①砂丘のへりにおける側方流動のリスク
西区寺尾朝日通付近において、砂丘の内陸側縁辺部で側方流動とみられる被害が発生したことが特徴的でした。側方流動には、傾斜地盤で液状化が発生して地表面に変位が起こるタイプと、港湾部などで護岸が移動することで起こるものが知られていますが、前者のタイプであるといえるでしょう。
石川県の内灘町付近も内灘砂丘という砂丘の背後で発生しており、新潟市西区寺尾朝日通付近と似た地形条件となっています。砂丘は砂浜海岸が広がる地域でよく発達し、鳥取県の砂丘や静岡県の中田島砂丘・南遠大砂丘などが有名ですが、秋田砂丘、庄内砂丘など日本海側に多い他、大規模でなくとも砂丘は例えば九十九里浜等でも砂丘地形はあり、場所によっては新潟砂丘や内灘砂丘と同じような条件の場所も含まれるものと考えられます。
砂丘の上は液状化の条件である地下水位が深い(低い)ことから液状化しづらい傾向がありますが、砂丘と砂丘の間の低地や、砂丘の縁辺部(後背湿地との境界近く)は、緩い砂も多く、地下水位も浅い上に、斜面であるということで特有の被害が生ずる可能性について理解が必要です。側方流動では、地盤が低い側に動いてしまうことが特徴です。
宅地を修復しようとする際、その場で家が沈下したものを修正するだけにとどまらず、敷地境界の確定や、擁壁などの補修が必要なこと、地下の液状化層の対策には多くの費用と労力、時間がかかることが見込まれ、個人レベルでの対応が難しいという課題があります。
今後は、砂丘のへり、とくに陸側の斜面下部では、地盤の側方流動にも注意が必要という周知が必要であると考えます。
②注意を要する地形区分:砂丘のへりに加えて旧池沼・旧河道・低い自然堤防
新潟市西区小西の液状化被害は、地形区分図と、旧版地形図から、池沼だった場所を埋めた「旧池沼」での被害であることがわかりました。ときめき西、善久付近も旧河道と、旧河道と標高がほぼ同程度の低い自然堤防であることがわかりました。液状化現象は、緩い砂地盤と高い地下水の水位の場所で強い地震(概ね震度5強程度)の地震が来ると発生することがあります。
液状化が発生しやすいかどうかは、その場所の「地形区分」を知ることで傾向を知ることができます(国土交通省)。これによると、もっとも液状化発生傾向高いランクに、寺尾朝日通のような砂丘のへりが「砂丘末端部斜面」として掲載があります。同じく、旧河道、旧池沼も含まれ、自然堤防のうち、標高の低い場所は液状化の発生傾向が強いと考えられます。
以上のことから、今回液状化被害が大きかった地点は、地形傾向からみて特に液状化の発生しやすい地形で発生していたと考えることが妥当でしょう。
③自治体液状化マップ・液状化履歴との関連性
「新潟県内の液状化しやすさマップ(新潟地域)」に4か所の調査地点の概ねの位置を落とし込んでみました。新潟県の液状化しやすさマップでは、液状化危険度を危険度4:液状化の可能性が高い、危険度3:液状化の可能性がある、危険度2:液状化の可能性が低い、危険度1:液状化の可能性が非常に低い、危険度0、液状化判定の対象外、に区分しています。また、液状化履歴がある地域も着色されています。
その結果、寺尾朝日通付近は危険度4~3、小新西は危険度3(盛土造成地)、ときめき西は危険度4~3、善久も危険度4~3とされ、一定の液状化の可能性がある、もしくは高い地域に一致していることがわかりました。小新西を除いて、液状化履歴(面)の灰色のゾーンにかかっているようにもみられます。事前に、一定以上の液状化リスクがあることは示されていた地域であるということができそうです。
以上の液状化マップからも、液状化の危険度が4(高い)、3(ある)と、あらかじめリスクが高い、ある側の地域であったことが明確です。かつ、小新西を除いて液状化の履歴があります。従前は液状化した場所は再液状化しない、と考えられてきましたが、今では液状化は同じ場所で繰り返し発生することが知られており、過去の発生履歴も液状化リスク検討材料になります。
④まとめ
以上、液状化による大きな被害があった4地点の調査では、様々な資料から液状化の発生が懸念されている地域で、被害が発生していたことが明らかになりました。液状化リスクの特定には、①地形区分、②土地利用履歴)、③液状化マップ、④液状化の発生履歴でリスクが有るか確認することが妥当であると考えます。長いこと水田として利用されるなどで、人が住んでこなかった土地には、このような場所も多く含まれます。
液状化マップ等は公開はされているものの、存在を知らない、見てもわからない、などという方も少なくありません。まずはお住まいの方に伝える体制や、そのうえでどのように住むかということを考えて頂くことが重要でしょう。液状化は直接人がなくなる可能性は低く、場所や住み方によっては立地の課題(津波からの避難)の問題や、耐震性向上のほうが優先順位が高い課題であることもありえます。液状化以外の災害リスクも十分に伝えられ、理解され、家庭の防災に活用されていくことが望まれます。
⑤終わりに
本調査は、株式会社M's構造設計の代表取締役社長・佐藤実氏、同社・佐藤大地氏、西日本住宅地盤事業協同組合の代表理事・西村伸一氏と共同で実施したものです。網羅的な調査ではなく、被害が大きいとみられる地点の情報などをもとに確認しているもので、実際にはより広い範囲で被害などが発生していることが考えられます。
なお、株式会社Be-Doでは、1月30日~2月1日前後に、現地の関係者や住宅・地盤の専門家などと連携して、能登半島地震被災地における家屋・地盤の日際に関する現地調査と、家屋の被災があった方向けに、家屋の微動探査による耐震性能の実測を無償で実施することを計画しております。
執筆:横山芳春(株式会社Be-Do)
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