株式会社Be-Doでは、都道府県別の地震と地盤災害の特徴について紹介するコラムを公開してまいります。とくに地形的特徴、過去の災害の履歴、懸念される地震、地盤の揺れやすさについて、順を追って紹介してまいります。今回は、熊本県の地形・災害と地震について紹介します。

 熊本県の地形的特徴

 熊本県は九州の中央部西側に位置しており、北は福岡県、北東は大分県、東は宮崎県、南は鹿児島県と接しています。かつては肥後国と呼ばれ、1588年に加藤清正が領主となると、現在の熊本城の築城のほか、領内の治水、干拓などを進めています。

 地形的には県北部の福岡県境にある筑肥山地、県南部には広く国見山地が広がっており、西側の八代海の沖には上島、下島を中心とした天草諸島があります。県東部には「火の国」熊本県のシンボルである火山・阿蘇カルデラがあります。阿蘇カルデラ東西18km、南北が25kmと世界でも有数の規模である阿蘇カルデラを形作っており、過去には九州の多くの範囲を火砕流で覆ってしまうほどの巨大な噴火を起こしています。阿蘇カルデラ内には、阿蘇五岳と呼ばれる高岳、中岳、根子岳、烏帽子岳、杵島岳がそびえています。「阿蘇山」とは、これらの火山を総称した呼び方です。

 阿蘇カルデラの周辺には、火山付近に特有な火山麓地形や、火山性丘陵が広がっています。阿蘇カルデラから西側に流れる白川の下流域には、熊本平野が広がっており、水前寺公園より東側ではやや標高が高い台地からなりますが、水前寺公園より西側では低平な低地となります。熊本平野は多くの川が流れ下る地域であると同時に、阿蘇カルデラ周辺からもたらされた良質な地下水が多く自噴する地域で、地下水資源の豊富な「水の国」としても知られています。熊本平野の南側には、八代海に面した八代平野が広がっているほか、沿岸部には海を埋め立てた干拓地や埋立地が広がっています。

熊本県の地形区分(地理院地図「地形区分」に加筆)

熊本県における過去の災害の履歴

  • 地震

 熊本県で発生した地震として、近年では2016年4月に起きた熊本地震が記憶に新しいでしょう。4月14日21時26分の「前震(マグニチュード6.5)」に加えて、4月16日1時45分の「本震(マグニチュード7.3)」と、28時間ほどの間に2回の震度7の揺れを立て続けに観測しています。前震では熊本県益城町で震度7を本震では熊本県益城町、西原村で震度7を、熊本県菊池町、熊本市中央区、東区、西区などで震度6強の揺れを観測しています。一連の熊本地震では、消防庁のまとめによると地震による死者は273名ですが、そのうちの8割を超える218名の方が地震自体ではなく、地震後の避難生活などで亡くなった「災害関連死」の方とされています。住宅の被害は全壊が8,667棟、半壊が34,719棟、一部破損が163,500棟という、多くの住宅の被害があった地震でした。

 

熊本地震本震(2016年4月16日)当日の益城町における被害状況(横山芳春撮影)

 一連の熊本地震では、2回の震度7を記録した地震以外にも、前震から1週間以内に最大震度6強の地震が1回、6弱の地震が3回、5強の地震が2回、5弱の地震が7回も起きていることが特徴です。前震の後に一度避難したのち自宅に帰宅して、その後の本震で亡くなってしまった方もおいでになります。静岡大学による研究では、4 月16日の本震による犠牲者41人について、「14日夜(前震後)に何らかの避難行動をとり,15日夜(本震前)には自宅に戻って死亡した可能性が高い犠牲者は13人だった」としています(カッコ内は筆者追記)。こうしたこともあって、地震後に避難所だけでなくテントや車内で避難生活を続け、エコノミークラス症候群などで体調を崩される方、さらに亡くなってしまう方も多いという地震でした。

 建物の被害に目を向けてみると、木造住宅の被害が目立ちました。被害が集中した益城町中心部で行われた悉皆調査では、下の図の通り左側から旧耐震基準(1981年5月までの基準)、新耐震基準(1981年6月以降)、現行の2000年基準(2000年6月以降)と、新しい耐震基準の木造住宅ほど倒壊・崩壊や大破といった被害は減り、無被害の住宅が増えていく傾向にあります。悉皆調査の範囲において、倒壊・崩壊した建物は、旧耐震基準では28.2%、新耐震基準では8.7%、現行の2000年基準では2.2%と新しい基準の住宅程と倒壊・崩壊に至る建築物が顕著に減少する傾向がありました。大破した建物も同様な傾向があります。その反面、無被害の建物は旧耐震では5.1%に過ぎませんが、新耐震で20.4%、2000年基準では61.4%と、新しい基準になるほど増加する結果が読み取れます。

熊本地震による益城町中心部の木造住宅の耐震基準ごとの被害(国総研資料より)

 現行の2000年基準の建物のなかでも、建築基準法で定められた基準(耐震等級1)の1.5倍の耐震性能がある「耐震等級3」の建物は、悉皆調査エリアに16棟があったとされています。そのうち、耐震等級3の建物16棟中の14棟(87.5%)で無被害、2棟が軽微または小破の被害で、大破以上の被害を受けた建物はみられませんでした。設計の面からは、耐震等級3の家では対象数は少ないながら、全棟で住み続けられるという結果となりました。兵庫県南部地震の被害などを考慮すれば、新築や築浅のRC造に住むことが理想でしょうが、それができない場合や木造住宅に住みたい場合には、地震に対しては構造計算(許容応力度計算)に基づく耐震等級3が最善の選択肢と言えるでしょう。

 熊本地震後、益城町では地盤の微動探査による研究も実施されていますSenna et al.,2018。この研究では、地盤の特性と家屋の被害状況がまとめられていますが、地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)が大きい地域より、ある特定の周期の地盤の地域で木造住宅の被害が大きかったことがわかります。具体的には、下の図で黄緑色、緑色で塗られている、地盤の周期が0.44秒~0.57秒とされる地域で、赤丸で示された建物が完全に倒壊した被害の大きな住宅が集中していたとされています。これは、築年数の古い既存の木造住宅と、地盤の周期が「共振」した可能性が考えられるでしょう。

熊本地震後に実施された微動探査による地盤の周期と家屋の被害状況(Senna et al.,2018に加筆)

・台風など

 熊本県の風水害としては、熊本市街地を流れる白川などの河川はたびたび洪水氾濫を引き起こしています。近年では平成24年(2012年)7月に発生した平成24年7月九州北部豪雨では甚大な被害がありました。熊本県内では「熊本広域大水害」と呼ばれており、白川や合志川など複数個所で河川の氾濫が発生しています。熊本県のまとめでは、死者23 人、行方不明者2 人、重軽症者11人、住家被害は全壊169棟など3408棟に、非住家被害は1045棟に達したとされています。

 「重ねるハザードマップ」では、熊本平野の白川、緑川の流域などでは、洪水時に最大で5.0m~10mという、2階の屋根以上が浸水する想定浸水深の地域もあります。豊富な水資源を誇る「水の国」である熊本市は、多くの川が合流して流れ下る流域にあるため、是非ハザードマップなどでお住いの水害リスクを確認すると良いでしょう。

 近年では、2020年7月の令和2年7月豪雨では、熊本県南部の人吉市などで球磨川が氾濫したほか、多くの被害が発生しました。熊本県によると、県内の死者は合計67名、行方不明者2人、全壊棟数1493棟などの甚大な被害が発生しました。7月4日未明から朝にかけて、時間雨量30mmを超える激しい雨が8時間にわたり降り続いたことで甚大な被害が発生したとされ、亡くなった方の8割以上が高齢者であるとされています(NHK)。

 人吉市付近の球磨川は、上流側に人吉盆地があり、下流側で山地を抜ける河川として川幅が狭くなっており「ろうとの口」のような地形の場所になっています。さらに複数の支流が合流してくる地点にあることなどから、地形的に水害が発生しやすい立地にあるということができます。浸水の深さが2階を超えるような水害は、個人での対策は難しいでしょう。台風接近や川の増水・氾濫が想定される場合には、早期に安全な場所に避難する心がけが必要です。

熊本県で注意すべき地震は?

 2016年に熊本地震が発生したことから、熊本県ではしばらくは大きな地震が起きないのではないか?という意見も聞かれますが、実際にはどうでしょうか。熊本地震は活断層の活動による地震でしたが、下の図の通り、北側の熊本平野にある布田川断層帯と、南側の八代平野から八代海に向ける南側にある日奈久断層帯のうち、北側の区間が活動したとされています。熊本地震では日奈久断層帯の南側にあたる区間は動いていない状態になっています。

 日奈久断層帯のうち南側の区間について、国は、地震発生の切迫度を最も高い「Sランク」としています。「日奈久断層帯の南側は、熊本地震の前よりも地震が起こる可能性が高まっている」という専門家もあり(NHK)、「熊本地震が起きたからしばらく地震は起きない」と考えることはできないといえるでしょう。熊本県は、引き続き八代平野を中心として、活断層の活動による直下型地震の発生に注意が必要な地域であると考えられます。

日奈久断層のうち、熊本地震で活動したのはごく一部と考えらえる(地震本部HPの図に加筆

 活断層の地震だけではなく、南海トラフ地震にも注意が必要です。熊本県は太平洋沖にある南海トラフ地震の震源域からやや距離が離れていますが、震度の最大値となる想定では、下の図のように熊本県内では震度5弱~5強の揺れに見舞われると考えられています。県内全域で震度6弱以上の揺れとなるとされています。南海トラフ地震では津波だけではなく、巨大な地震による長い時間の強い揺れによる被害や、沿岸部や川沿いでは地盤の液状化も懸念されています。
 前回の南海トラフ地震は、別々の地震に分かれる「半割れ」タイプで、1944年の昭和南海地震、1946年の昭和東南海地震が最後に発生したものです。標準的な発生間隔は88.2年の間隔となることから、1944~1946年を基準とすると2032~2034年が「満期」となります。とはいえ、この年までに必ず起こるわけではなく、もっと早くなる場合もあれば、後倒しになる場合もあることでしょう。活断層による直下型地震と合わせて、日ごろからの備えが重要です。

南海トラフ巨大地震で想定される最大の震度(南海トラフ巨大地震の被害想定より)

 熊本県の地盤の揺れやすさは?

 熊本県の地震時の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)はどうなっているでしょうか。防災科研のJ-SHIS MAPをもとに見てみましょう。表層地盤増幅率2.3以上の濃い赤色の地域は「特に揺れやすい地盤」、また1.8以上の赤色の地域が「揺れやすい地盤」であるといえます。

 熊本県では、揺れやすい地盤の地域は熊本平野の西部・熊本市の西側一帯や、玉名市の菊池川河口部一帯、また八代海沿岸の八代平野など、低地や干拓地の地域にあることがわかります。また、内陸でも阿蘇山のカルデラ内(特に北側)や、山鹿市内の菊池川流域などで揺れやすい地盤が見られる地域があります。これらの地域では、地震時に揺れが大きく増幅され、揺れにくい地盤の地域と比べて震度が大きくなる可能性などに注意が必要とでしょう。

 一方、山地部および阿蘇山周辺などでは、表層地盤増幅率1.4未満の「比較的揺れにくい地盤」の地域が多く見られます。山地・丘陵地の自然地盤は硬く締まった地盤が多いと言えますが、傾斜が大きな山地・丘陵地などでは土地を平たん化する際に盛土造成が行われることが多く見られます。過去の地震被災地などでは、盛土造成地では自然地盤と比べて地震時の揺れによる宅地被害が増加することが知られており、造成地の住宅では地震対策の際に考慮しておくと良いでしょう。

 J-SHIS MAPは目安として非常に有用ですが、約250m四方のメッシュ単位の評価であるため、場所によっては3倍、1/3ほども数値と実測値が異なることがあります。また、過去の地震被災地では通り1本、家1,2件を挟んだほどの距離で地盤の特性が大きく変わり、被害の傾向も全く異なるという事例がありました。J-SHIS MAPは目安として活用できますが、安心・安全な家づくりのためには地盤の微動探査でピンポイントの実測値を得ることができます。

J-SHIS MAPに表層地盤増幅率を表示

 熊本の地盤の揺れやすさを調査したい場合は?

 我が家で地盤の揺れやすさを計測できる「微動探査」を行うことで、住宅づくりや地震対策の際に検討するデータとして活用することができます。熊本県で「微動探査」を受注・実施している企業は以下となります。

熊本県で微動探査ができる企業は?

圓佛産業株式会社
 福岡県大牟田市不知火町2丁目1-14 2階(大牟田本社)
 熊本県熊本市東区戸島西1丁目35-10(熊本営業所)

FAD建築事務所
 熊本県菊池市泗水町南田島1049-2

微動探査にご興味・ご関心のある方、コラムの内容に関するご質問、ご取材等は、当社お問い合わせフォームよりお問い合わせください。

 コラム執筆:株式会社Be-Do会長/技術責任者 横山芳春 博士(理学)