株式会社Be-Doでは、各都道府県別の地震と地盤災害の特徴について紹介するコラムを公開してまいります。とくに地形的特徴、過去の災害の履歴、懸念される地震、地盤の揺れやすさについて、順を追って紹介してまいります。今回は第一回コラムとして、愛知県の地形・災害と地震について紹介します。

 愛知県の地形的特徴

 愛知県は日本のほぼ中央付近の太平洋側に位置しており、西は三重県、北は岐阜県、北東は長野県、東は静岡県と接しています。県のやや西側を南北に流れる境川を境に、西が旧尾張国、東が旧三河国となり、「戦国の三英傑」、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の出身地です。

 県西部では、木曽川、庄内川が流れる低平な「ゼロメートル地帯」となる濃尾平野が広がっているほか、矢作川流域の岡崎平野、豊川流域の豊橋平野では肥沃な土壌からなり、米作が盛んです。濃尾平野の東側は小牧台地熱田台地などの台地があり、名古屋城や熱田神宮は熱田台地のへりに建てられています。その東側には尾張丘陵と呼ばれる丘陵地からなり、南側の知多丘陵へと続き、知多半島へと伸びています。

 知多丘陵の東側には碧海台地、また渥美半島から東側にも台地が広がっています。知多半島と渥美半島の間は三河湾、知多半島と三重県の志摩半島の間は伊勢湾となっており豊富な水産資源を有しています。県北東部は長野県の木曽山脈から続く山地が広がっています。この山地は三河山地(三河高原)と呼ばれ標高1000m級の山からなります。

愛知県の地形区分(地理院地図「地形区分」に加筆)

愛知県における過去の災害の履歴

  • 地震

 愛知県は、南海トラフ巨大地震の震源域に面した太平洋岸にあることから、過去に繰り返し南海トラフ巨大地震の被害を受けています。最も直近の地震は1944年12月7日に起きた、「昭和東南海地震」です。この地震はマグニチュード(M)7.9の地震で、死者 1,183人(うち愛知県435人)、負傷者 2,853人(うち愛知県1,142人)、住宅全半壊 54,781棟(うち愛知県26,609棟)と(名古屋地方気象台)、震源に近い人口密集地である愛知県での人的被害が最も大きくなっています。

 また、愛知県の内陸では活断層による地震が複数回発生しています。近世の巨大な活断層による地震では、昭和東南海地震の37日後、1945年1月13日に起きた「三河地震」があります。三河地震は、愛知県東部にある深溝断層と横須賀断層と呼ばれる活断層の活動によるM6.8の地震と考えられています。矢作川下流域で被害が大きく、昭和東南海地震で被害があった家屋がさらに三河地震の揺れで倒壊するなどして、被害が拡大した可能性もあります。南海トラフ地震後には、活断層の地震が「誘発」される可能性も懸念されます。

 活断層による地震としては国内最大級の地震としては、1891年10月28日に発生した「濃尾地震」があります。M8.0の規模で、死者・行方不明者は7273人、地表に現れた活断層は、岐阜県西根尾村(現在の本巣市)では最大で高さ6mに達しました。愛知県は震源から距離が離れていましたが、濃尾平野では地盤が軟弱であることから、家屋被害が多く発生したとされています。

愛知県で発生した地震災害の例地震本部HPより

・台風など

 愛知県の風水害では、1959年の9月の伊勢湾台風(1959年台風15号)による被害が著しいです。伊勢湾台風による犠牲者の83%は高潮の発生によって愛知・三重の2県に集中したとされています。この理由としては、濃尾平野沿岸のゼロメートル地帯の低平地に高潮浸水があったことにあります。輪中地帯である濃尾平野は洪水、地震時の津波に加えて、台風などの際の高潮浸水が懸念されます。

 近年では、2000年9月11日 - 12日を中心に名古屋市を含む愛知県周辺で起こった豪雨災害である「東海豪雨」が有名です。本州付近に梅雨前線が停滞したところに同年台風14号の活動により前線の活動が活発化し、愛知県、三重県、岐阜県に激しい雨をもたらしたものです。名古屋市では9月の平均降水量の倍の雨があり、天白区では天白川と支流に挟まれた地域を中心に多数の被害を生じました。都市化した市街地で発生する「都市型水害」の典型例とされています。

愛知県で注意すべき地震は?

 愛知県は、南海トラフ巨大地震の震源域に近いことから、繰り返し発生する南海トラフ巨大地震の発生時には大きな被害が懸念されます。南海トラフ巨大地震は、今後30年以内にM8~9クラスの地震が70~80%の確率で発生するとされています。南海トラフ地震は、過去600年ほどの間に約90~150年程度の間隔で大地震が発生しています。

 前回の南海トラフ地震は、別々の地震に分かれる「半割れ」タイプで、1944年の昭和南海地震、1946年の昭和東南海地震が最後に発生したものです。標準的な発生間隔は88.2年の間隔となることから、1944~1946年を基準とすると2032~2034年が「満期」となります。とはいえ、この年までに必ず起こるわけではなく、もっと早くなる場合もあれば、後倒しになる場合もあることでしょう。日ごろの備えが重要です。

 南海トラフ地震が発生した場合の想定では、震度の最大値となる想定では、下の図のように愛知県の沿岸部・平野部では震度6強~7の強い揺れに見舞われ、県内全域で震度6弱以上の揺れとなるとされています。南海トラフ地震では巨大津波も懸念されますが、巨大な地震による長い時間の強い揺れによる被害や、沿岸部や川沿いでは地盤の液状化、また揺れや液状化による堤防や水門などの損壊も懸念されます。

南海トラフ巨大地震で想定される最大の震度(南海トラフ巨大地震の被害想定より)

 このほか、愛知県内には多数の活断層があり、約30本の活断層があるとされています。活断層による地震の場合、それぞれの活断層の活動間隔は数千年などと長くとも、ひとたび活動してしまうと都市近傍の浅い場所で大きな地震が発生することになります。この場合、都市部や人の住む真下で地震が起こることから、大きな被害をもたらすことがあります。三河地震のように、80年前ほどに実際に起きた事例もあります。過度に恐れることはないにせよ、一般的な地震対策を万全にして、万一の活動の際にも被害を最小限にすることが求められるでしょう。

愛知県内の活断層(愛知県HP

 愛知県の地盤の揺れやすさは?

 愛知県の地震時の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)の目安は、下の図の通りです。表層地盤増幅率2.3以上の濃い赤色の地域は「特に揺れやすい地盤」、また1.8以上の赤色の地域が「揺れやすい地盤」であるといえます。

 愛知県の地盤の揺れやすさはおおむね地形分類に則り、揺れやすい地域は名古屋市、一宮市をはじめとした濃尾平野のほか、三河湾沿岸の平野部にある豊川市、豊橋市、西尾市など人口の多い都市部が揺れやすい地域にあることがわかります。これらの地域では、地震時に揺れが大きく増幅され、揺れにくい地盤の地域と比べて震度が大きくなる可能性などに注意が必要とでしょう。

 一方、尾張丘陵やその周辺の台地部などでは、表層地盤増幅率1.4未満の「比較的揺れにくい地盤」の地域が多く見られます。丘陵地の自然地盤は硬く締まった地盤が多いと言えますが、傾斜が大きな丘陵部では土地を平たん化する際に盛土造成が行われることが多く見られます。過去の地震被災地などでは、盛土造成地では自然地盤と比べて地震時の揺れによる宅地被害が増加することが知られており、丘陵地では地震対策の際に考慮しておくと良いでしょう。

 J-SHIS MAPは目安として非常に有用ですが、約250m四方のメッシュ単位の評価であるため、場所によっては3倍、1/3ほども数値と実測値が異なることがあります。また、過去の地震被災地では通り1本、家1,2件を挟んだほどの距離で地盤の特性が大きく変わり、被害の傾向も全く異なるという事例がありました。J-SHIS MAPは目安として活用できますが、安心・安全な家づくりのためには地盤の微動探査でピンポイントの実測値を得ることができます。

愛知県の地盤の揺れやすさ(J-SHIS MAPに表層地盤増幅率を表示)

 愛知県の地盤の揺れやすさを調査したい場合は?

 我が家で地盤の揺れやすさを計測できる「微動探査」、を行うことで、住宅づくりや地震対策の際に検討するデータとして活用することができます。愛知県で「微動探査」を受注・実施している企業は以下となります。

株式会社シンホリ
 愛知県半田市州の崎町2番地226

株式会社 Shin - Living Union
 愛知県小牧市多気中町63番

微動探査にご興味・ご関心のある方、コラムの内容に関するご質問、ご取材等は、当社お問い合わせフォームよりお問い合わせください。

 コラム執筆:株式会社Be-Do会長/技術責任者 横山芳春 博士(理学)