株式会社Be-Doでは、常時微動探査の活用による地震防災の向上と、各学会等における研究発表活動を推進しております。2024年11月22日に開催された、第21回地盤工学会関東支部 発表会GeoKanto2024におきまして、弊社らが実施した令和6年能登半島地震の地震被災地の地盤の微動探査等による調査に基づいて、弊社会長の横山芳春が「令和6年能登半島地震における地盤の増幅・周期特性の傾向―輪島市輪島市街地、内灘砂丘地域、津幡町緑が丘・大規模盛土地の例-」と題して講演を行いましたので報告いたします。

 学会発表は講演者の横山芳春のほか、弊社代表取締役の戸成大地株式会社M's構造設計代表取締役の佐藤実氏同社の堤太郎氏西日本住宅地盤事業協同組合理事長の西村伸一氏防災科学技術研究所の先名重樹博士による連名にて実施いたしました。

 この研究発表では、以下の点について報告しています。

 ①ー1 輪島市の輪島市街地付近では、木造住宅の被害が大きかった地域では、表層地盤増幅率2.0倍以上、とくに2.3以上の揺れやすい地盤、地盤の周期0.6秒以上、とくに0.75秒以上の第3種地盤(軟弱な地盤)という、地震時に揺れが大きくなりやすい地盤がの多い傾向がありました。

 ②ー2 輪島市の輪島市街地付近では、J-SHIS Mapの250mメッシュと、実測の表層地盤増幅率の比は、最小値で0.54、最大値で2.63と「半分程度~2.5倍以上」の差異がありました。平均は1.3倍であり、実測のほうが数値が大きく、「J-SHIS Mapで過小評価側」の傾向がありました。

 ②液状化被害の大きかった内灘町では、表層地盤増幅率は無被害であった砂丘上の1.76に対し、液状化被害が大きかった砂丘縁辺域では2.29と約1.3倍に及んでいました。

 ③大規模盛土造成地の盛土地盤が崩落した津幡町緑が丘では、切土側(自然地盤)と盛土側において計測を行い、盛土地盤の分布深度を推定しました。表層地盤増幅率は切土側で1.54、盛土側で1.86と、盛土側で約1.2倍ほど揺れやすい数値であることが判明しました。

 調査範囲・調査・解析方法

調査範囲
 Be-Doでは、新潟市西区から能登半島の石川県珠洲市、輪島市、志賀町、また津幡町、内灘町における地盤の微動探査を実施しています。今回の研究発表では、以下の赤色文字で示した津幡町緑が丘、内灘町西荒屋、輪島市街地を中心として、地盤の微動探査を実施した内容について紹介しました。地盤の微動探査として、Be-Doで実施した17地点と、先名重樹博士(先名重樹,2024,令和6年能登半島地震における液状化等の被害と地盤増幅特性,地震学会2024年度秋季大会)による輪島市の結果を用いています。

 

調査方法
 現地における常時微動探査は,①4 台の微動計(速度計)を中心に1 台、60 ㎝半径の円周上に120 度の位置に正三角形状に3 台を配置する配置(極小アレイ探査)および、②3~10m 間隔に3 台を三角形状に配置(不規則アレイ探査)にて、各16 分間の観測を行いました(ISO24057に準拠)微動計は、応用地震計測株式会社製の「Be-Do_001(速度型センサ・直交3 成分)」を用いて観測を実施しました。輪島市街の先名(2024)では白山工業株式会社製の「JU410(加速度型センサ・直交3成分)」を用いて観測しています。

解析方法
 現地で得られた微動観測データは防災科学技術研究所の「微動クラウド解析システム (BCAS) 」を用いて解析を行い、従来のSPAC法を拡張したCCA法などによる表面波の分散関係を求めたのち、SPM-SIM法により地盤のS波速度構造を求めました表層地盤増幅率などは、先名ほか(2023) 強震動評価のための浅部・深部統合地盤構造モデルの構築.防災科学技術研究所研究資料,第498号の手法に基づいています。

 ①輪島市街地における結果

微動探査結果
 輪島市街地の62地点における微動探査結果の結果は以下の通りとなります。輪島市街の概ね南北3.25㎞、東西2.75㎞の範囲内において、低地の氾濫平野域を中心に、250mメッシュ61箇所における表層地盤増幅率(左)と、地盤の周期(右)の結果を示しています。

 表層地盤増幅率(左)では、2.0以上(濃いオレンジ色)、2.5以上(赤茶色)の範囲が広く分布しております。地盤の周期(右)では、地盤の周期0.75秒以上の第三種地盤(「黄色本」の区分による)に相当する軟弱地盤の範囲(赤色)が、表層地盤増幅率の高いメッシュの分布に似た範囲で広がっていました。このような表層地盤増幅率の傾向は、2024年9月1日に放映されたNHKスぺシャル「首都直下地震への警鐘 能登半島地震で見えた地下のリスク | MEGAQUAKE 巨大地震 “軟弱地盤” 新たな脅威でも先名重樹博士が解説しております。

 調査範囲の北西部(海士町~輪島崎町)、また調査範囲の北東部(河井町北東部~久手川町)では表層地盤増幅率が低い(1.2以下など)、また周期が短い(場所により0.2秒以下)などの比較的揺れにくい地盤の地域がありました。

 なお、J-SHIS Mapの250m メッシュごとの表層地盤増幅率(地形区分ベースで表示)と、微動探査で得られた実測の数値の比を調べてみました。その比率は、J-SHIS Mapの数値に対して、実測値は最小値で0.54、最大値で2.63と「半分程度~2.5倍以上」の差異がありました。「倍、半分、違うことがある」という話が言われることがありますが、これを実証できた結果となりました。
 62メッシュにおける比の平均は1.3倍であり、実測のほうが数値が大きく、「J-SHIS Mapで過小評価側」の傾向がありました。実測に基づいた評価が求められます。

 輪島市街の概ね南北3.25㎞、東西2.75㎞の範囲内において、微動探査が実施された62メッシュおよびその周辺の地域において、横山による目視の範囲で木造住宅の概ねの被害傾向を調査・記録しました。こうした木造住宅の被害傾向は地域によって異なります。下の図では、調査範囲において木造住宅の被害が著しい地域(倒壊家屋が目立つ)地域、被害が限定的な地域(中破以上の住宅が少なく、倒壊家屋が目立たない)地域について、その概ねの位置を表示しています。

 被害が限定的な地域を水色、被害が著しい範囲を紫色のほか、火災被害のあった範囲を示しています。実際には同じ色がついている中でも被害があるほか、十分に各メッシュ内を周り切れておらず、確認できていない被害等もあると思いますので、およその地域の目安としてお考え下さい。

 被害が著しい地域は、二本の川(東側の河原田川、西側の鳳至川)が合流する付近の西側、鳳至町付近の一部と、東側の河井町のうち西側地域で特に被害が目立ちました。そのほか、地域によって倒壊家屋が目立つ地域がいくつか見られました。被害が限定的な地域では、調査範囲北西部の海士町~輪島崎町の一部、調査範囲北東部の河井町東部ほか、宅田町の台地部などで被害が限定的な地域が目立ちました。

 以上、微動探査で得られた地震に関する地盤情報として、表層地盤増幅率、地盤の周期と、木造住宅被害傾向のマップを下の図で重ね合わせました。

 その結果、鳳至町~河井町西部でみられた、木造住宅の被害が著しい範囲では、表層地盤増幅率2.0以上、2.5以上の地域にその多くが含まれていました表層地盤増幅率2.0以上の地域でも、実際の数値を見ると2.3以上(揺れやすい地盤)の地域が主体となっていました。周期では0.75秒以上の第3種地盤(軟弱地盤)の地域のほか、黄色の第2種地盤の中でも、0.6秒以上の地盤周期の地域が主体となっていました。

 揺れやすい地盤、軟弱地盤と言われる地域で被害が大きい傾向がありました。このような地盤の地域では、本来第三種地盤が求めている「1.5倍の壁量」による耐震性能の向上がとられることが望ましいように考えられます。

 被害が限定的な地域では、表層地盤増幅率が低い(1.2以下など)、また地盤の周期が短い(場所により0.2秒以下)地域が目立ちました。揺れにくい地盤、良好な地盤の地域において、被害が限定的である傾向がある可能性があります。

 実際の被害には建物側の築年数を中心とした耐震性能の違いなどによる点もあると思われますが、地盤が軟弱で地震時に揺れが増幅されやすく揺れやすい地盤の地域で家屋の被害が著しい、地盤が良好で地震時に揺れが増幅されにくく、地震時に揺れにくい地盤の地域で被害が限定的である傾向がある可能性が考えられます。

 なお、調査範囲南東部の横地町付近では、そこまで地盤増幅率が大きくない地域で木造住宅の被害が大きかった地域がありました。250mメッシュ内の調査地点では、この被害が大きかった地域の近傍での調査を実施できていないことから、局所的に揺れやすい地盤等があった可能性も考えられます。250mメッシュは非常に広い範囲になるので、微動探査は地盤によっては1軒ごとに数違うこともあり、個別宅地の探査が重要であるといえるでしょう。

 

内灘町における調査結果

 内灘町付近では、液状化による著しい被害が発生していました。写真は地震発生から3日後、今年の1月4日の内灘町西荒屋の写真です。道路は波うち、電柱や標識は大きく傾き、大型車に電線が接触するかという状況でした。液状化によって地盤全体が沈下するだけではなく、斜面の上側から下側に流れてしまう「側方流動」が発生したものとみられます。土地全体が動いてしまうことから、境界の確定なども必要で、復旧には長い年月が想定されます。

 側方流動のイメージは下の図のようになります。地下にある層が液状化した(液状化層)と想定され、上部の表層地盤が斜面の上から下に流動することで、大きな地割れとともに地盤は斜面の下の方に押し出され、階段や道路は急な傾斜となったり盛り上がったり、沈下したり、住宅も裂けるような被害や基礎地盤が流出する等の被害がみられました。

 内灘町で被害が大きかった内灘町西荒屋は、内灘町付近(金沢市~かほく市に至る地域)に南西ー北東に伸びる「内灘砂丘」の、陸側(東側)の低い端のあたりに位置しています。古地図と見比べると、西荒屋付近では人工的な切土改変も行われたとみられます。7月に開催された地盤工学会では、池のように掘り下げられた場所であったという記録もあったということを聞いています。そのような砂丘のへりの地域で被害が連続していました。

 Be-Doによる微動探査は、液状化被害の大きかった内灘町西荒屋の砂丘のへり部分と、液状化被害がみられなかった砂丘上の内灘町ハマナス(内灘町役場がある付近の地名)の2箇所で実施しました。その結果、被害がなかったハマナスでは表層地盤増幅率1.76に対し、西荒屋では2.29 と1.3倍ほど揺れやすい地盤からなっていました。能登半島地震では、内灘町は震度5弱が記録されていますが、被害が大きかった地域では、3割程割増しされた揺れに見舞われていたことが想定されます。

津幡町における調査結果

盛土造成地の被害

 能登半島地震では、地震による家屋倒壊や液状化、また津波被害などばかりではなく、盛土造成地における崩落も発生しています。確認できた範囲では、能登半島中部にある七尾市南ヶ丘地区(下写真右側)で家屋の崩落があったほか、金沢駅から車で30分ほどの場所にあり、金沢市の北側に隣接する津幡町緑が丘地区で、住宅の前面道路、ガレージが崩落している事例がありました。

 現地で被害を受けられた住民の方々で結成された「石川県津幡町緑が丘復興の会」の皆様のご協力によって、現地調査と地盤の微動探査を実施いたしました。大規模盛土造成地マップ(下図右上)にて、緑色で示された大規模盛土造成地の範囲にあり、①崩落した地点のすぐ脇にある盛土側と、②大規模盛土造成地ではない切土側、そして一段低い液状化とみられる崩落斜面の南側では噴砂とみられる現象があり、液状化が発生していたとみられる地点の前の地盤、3地点におきまして微動探査を実施しました。

 現地調査に際して、「石川県津幡町緑が丘復興の会」の方々よりブルーシートの裏側を見せて頂きました。住宅の基礎地盤である、粘性の高い埋土・盛土とみられる土がむき出しとなっていて、写真左側には円柱状に地盤改良された柱状改良体の一部がみられます。このような地盤改良が施されており、住宅も一定の支持がされているためか住宅の崩落には至っていないようでした。しかし、今後の豪雨や地震などによって崩落の進行や、地盤の浸食等が発生してしまうと、被害の拡大があることも懸念されます。拡大を防ぐためにも対策は急務と考えられます。

 津幡町緑が丘における、①盛土側と、②切土側、③液状化地点で、実施された地盤の微動探査により得られた地盤のS波構造(硬さ、柔らかさの目安)の断面図を、現地の標高に合わせて配置した図が以下のようになります。各、S波速度(赤い線)が左側ほど地盤が軟弱で、右側ほど地盤が硬いといえます。③切土側の自然の丘陵の地盤は、概ね200m/s程度、またはそれ以上の数値がありそうにみられました。

 盛土側では、軟弱な層が10m以上続いていることがわかり、この範囲が盛土であることが想定されます(実際は他の地盤調査法等とあわせて検証が必要です)。さらに、地表から10m付近には、100m/s前後の特に軟弱な部分があることがわかります。

 液状化発生地点でも、100m/s前後の軟弱な層が10mほど続いており、液状化しやすい盛土等があることが想定されました。

 表層地盤増幅率(ゆれやすさ)を見ると、①盛土側は表層地盤増幅率1.86、切土側は表層地盤増幅率1.54と、切土側から見て盛土側は1.2倍ほど揺れやすく、近傍の土地であってもゆれやすさが大きく変わっていたものと考えられます。地震時にも、盛土側ではより強い地震動が及んでいた可能性も考えられます。

 大規模盛土造成地の地震時の崩落被害では、①道路や上下水道など公共インフラと私有地が一体となって崩落するため片方だけの復旧が難しいこと、②私有地の復旧にも多額の費用が掛かってしまうこと(住宅の再建とは別)などが課題として挙げられます。

 大規模盛土造成地に指定されている場所でもあるため、復旧を推進する際には公共インフラの復旧と一体化した対応と今後の崩落防止策が望ましいと考えられます 是非、国の機関の方などは現地をご覧になって欲しいと考えます。

石川県津幡町緑が丘復興の会」の皆様、現地におけるご案内、ならびに調査のご協力ありがとうございました。

引き続き地震防災に関連するデータを取りまとめ、報告してまいります

 以上、現時点における能登半島地被災地域の調査結果として、報告した内容について解説いたしました。

 今後は微動探査で得られた周期と表層地盤増幅率の関係について、他地域の傾向との違いや、被害が大きかった地点の特徴、また建築学会さん等の「悉皆調査」結果が公表されておりますので、この結果との比較などについて。より深く検討を進めて行ければと考えております。特に、被害が大きかった地域の周期と表層地盤増幅率の特徴については一般化および公開を進めて参りたいと考えております。引き続き、よろしくお願いいたします。

 本報告の内容についてお問い合わせ、ご質問などがある方は、弊社お問い合わせ フォーム( Be-Do) よりお寄せ下さいませ。

 コラム執筆:株式会社Be-Do会長/技術責任者 横山芳春 博士(理学)